増え続ける地方債、国債残高、伸びない税収、削れないサービス、問われる自治体や国家のリーダー資質、地域主権の地域づくりの必要性が高まる中、自民党県議団は、県当局からの情報収集のみならず様々な観点から、あるべき行財政制度構築のために、自主的な取り組みを行っています。
今回は、平成21年3月24日(火)に開催した専門調査会で講演いただいた伊藤忠商事株式会社取締役会長/内閣府地方分権改革推進委員会委員長でもある 丹 羽 宇一郎氏の講義内容をまとめましたので報告いたします。
第3回 自由民主党専門調査会 講演記録
日 時:平成21年3月24日(火)
場 所:兵庫県議会 7階 大会議室
講 師:伊藤忠商事株式会社取締役会長
内閣府地方分権改革推進委員会委員長
丹 羽 宇一郎 氏
地方分権改革も皆さん新聞等の報道で御存じのように、反分権の動きが大変広がっている。実は昨日も鳩山大臣に直接お会いし、いろいろお話をさせていただいた。総理もそうであるが、大臣からは新聞報道とは違い、我々の勧告の精神を受けて、しっかりと実現に向かって、分権大綱に織り込んでいきたいというお話をいただいている。ただ、今の政局で、これから選挙がいつあるか、という問題もあるので、ここで党内で波風はあまり立てたくないというお気持ちもかなり強く、したがって、いろんな政策においても明確に打ち出していくというのは余り得策ではないという判断があるのではないかと私は推察している。最終的には今年中に地方分権改革大綱というのができ上がるので、その中に、これから私が申し上げるような話も入れていきたい、というお気持ちのようである。
さて、先ほど話を伺うと、今日はいろんな面の情報の収集というか、勉強会ということであるので、地方分権のお話をさせていただく前に、これからの日本を取り巻く状況について、少し話をさせていただかないと、なぜ地方分権か、これがなぜ日本の再生につながるかということになかなかたどりつかないのではないかと思うので、その辺から少し話をさせていただきたいと思う。
金融危機ということが盛んに叫ばれている。現下のこの金融危機をどうとらえるかということは、大変に大きな問題である。株も上がったり下がったり、かなり激しく動いているが、この金融危機のもともとは、金融貨幣経済と、それから実体経済、実物経済という二つの面で、バブルが発生したと私は理解をしている。例えば、10年前、世界のGDPは大体30兆ドルであったが、10年後の今は大体50兆ドル強、直近では53とか54兆ドルと言われているが、丸い数字で50兆ドルぐらい、つまり実物経済は10年間でざっと20兆ドルふえたわけである。
さて、金融経済はどれぐらいかというと、10年前は50兆ドルであったものが今170兆ドルにふえた。つまり約3.5倍にふえたわけである。実物経済は20兆ドルふえたが、金融貨幣経済は50兆から170兆に、120兆ドルぐらいふえた。膨大な金融資産がふえたわけである。
ここで、金融資産というのは、株式の時価総額、それから債券の発行残高、それからM2と言われている貨幣の流通量、この3つを合計して金融資産といっている。この金融資産が先ほど申し上げたように50兆から170兆ドルに膨れ上がった。
もともとこの貨幣というのは、第2次大戦前は金の裏づけというものがあり、それでこの貨幣の流通量がある程度抑制されてきたわけである。第2次大戦の前までは英国のポンドが支配的な通貨、基軸通貨であり、これは金の裏打ちが必要であったわけである。第2次大戦の終了前に、アメリカのニューハンプシャーのブレトンウッズで、戦勝国を中心に45カ国が集まり、第2次大戦後の通貨体制をどうするかという話し合いをした。
もともと通貨体制をなぜ確立しなければいけないかということの直接の理由は、ヒットラー体制もそうであったが、第2次大戦に向かうときに、貿易戦争が起きたことである。すなわち、各国が通貨の切り下げ、輸出の増進によって自国の利益の確保に動いた。そうした各国の通貨戦争が、実を言うと第2次大戦の裏側の引き金になったという経緯があった。再び第2次大戦後に通貨戦争が起きてはいけないということで、急遽IMFと世界銀行を両輪に、アメリカのドルを基軸通貨にした国際通貨体制を構築した。なぜかと言うと、この戦争で最も疲弊度が少なかったアメリカに金が集まっていたからである。世界の70%ぐらいの金がアメリカに集まっていたわけであるから、この金を裏打ちにしてアメリカのドルを基軸通貨にして通貨体制を整えようとした。これがブレトンウッズ体制だったわけである。
それで、1944年にブレトンウッズ体制が始まったわけであるが、1970年までの約30年弱の間はアメリカのドルが基軸通貨として機能していたわけである。
では、基軸通貨というのはどういう通貨かということであるが、なぜ日本の円、あるいはユーロ、中国の元は、基軸通貨になれないか。これだけドルが傷んでも、ドルに対する不信感が起きても、なぜ円とか、ユーロとか、元を基軸通貨にするという声が出ないかということであるが、基軸通貨になるためには幾つかの条件が要るわけである。
それは、一つには世界の各国で非常に広くその通貨が使われていることである。ドルほど広く使われているものはない。それから、使用する価値がある程度安定していないといけない。例えば、通貨が大混乱しているようなものは、あるいは、通貨量が非常に多いようなもので、価値が非常に低いものは基軸通貨にはなれない。
それからもう一つは、貯蔵する価値があるか、つまりそれをじっと持っている価値があるか、ということである。言い換えればじっと持っていて、暴落するようなものは基軸通貨にならない。だから、貯蔵していても、死蔵することにならない価値があるかということが3つ目である。
4つ目は、国の安全保障である。その国が安全面においても、防衛面においても、しっかりとした国であるかということである。例えば、ロシアは幾ら言っても安全面でまだ非常に不安がある。中国やヨーロッパについてもそうである。安全保障という面からいえば世界最大の軍備を、世界の軍備費の恐らく4、50%はアメリカが1国で使っているのではないかと思うぐらい、非常に強い安全保障の体制を持っている。この4つの条件を満たす通貨は、世界にドル以外にあるだろうかと探してみても、私はないと思う。
第2次大戦の直後もそのような中で、ドルというものが基軸通貨になったわけで、これに反対したのがイギリスのケインズである。ケインズが会議に出ていて、バンコールという新しい通貨をつくったらどうだと主張したが、却下され、ポンドを基軸通貨として維持しようとしたケインズの、あるいはイギリス政府のもくろみは崩れ、結局ドルが基軸通貨になったわけである。
ところが、第2次大戦後、IMF、世界銀行体制の下で、敗戦国、あるいは戦争参加国の経済が非常に疲弊している状況に対して、マーシャルプランなど、どんどんアメリカが支援をしていくわけである。あるいはまた、パブリックロー(公法)480号をベースにして、鉄のカーテン、ソ連共産圏を取り巻く各国に、食料を武器にして支援をしていった。このようにあらゆる形でドルをどんどん支援通貨として使ったことから、ドルの金の裏打ちができなくなってきた。とてもこれ以上金の裏打ちを続けるわけにいかないということで、ついに破裂したのが、1971年のニクソンショックと言われるものである。これで固定相場制の下で円が360円から308円になったのが1971年である。
このニクソンショック以来、担保なき、金の裏打ちのない紙幣、貨幣というものが生まれた。これがユーロダラーという名前で世界中に氾濫し始めた。氾濫というか、世界中に、過剰に流通していったわけである。こうしたドル紙幣のバブル発生がいろんな過程を経ながら、私が10年前と比較したように、金融資産が実体経済をはるかに超える勢いで膨張した原因であった。
本来ならば、実体経済の成長に近いスピードで貨幣経済も拡大しなければいけなかったわけである。ところが50兆ドルが170兆ドルになったが、実体経済は30兆ドルが50兆ドルであるので、両者のかい離は如何ともし難い大きさになってしまったということである。
そうすると、この過程の中で何が起きたかと言うと、やはりアメリカでは猛烈な勢いで株が暴騰するわけである。債券もどんどん膨らみ、そして、貨幣の流通量ももちろんのこと膨らんでいった。その中で、サブプライム問題が起きたわけである。
サブプライムが、なぜ今回の金融危機の引き金になったかと言うと、アメリカでは経済が活性化し、株や債券がどんどん上がり、当然のことながらとんでもない大金持ちも生まれた。その一方で、金が余ってしようがないわけであるから、全く金のない人にも貸し付けて、どんどん住宅を持たせた。これを最近のアメリカでNINJAと言う。NINJAというのはノーインカムのNI、ノージョブのNJ、そして最後のノーアセットのNAである。それをつないでNINJAというように読むわけであるが、このNINJAという言葉は、収入がない人、それから仕事もない人、しかも、さしたる資産もない人である。そういう移民の人とか、低所得層の人々、収入はない、働く場所もない人に住宅ローンだけはどんどん銀行が貸し付けたわけである。
日本と違い、アメリカの住宅ローンは、ノンリコースなので返せなくなったら幾ら借りていても家のかぎを返せば終わりである。それ以上、だれも追いかけてこない。日本はかぎを返しても、銀行や貸したところが、おまえの借金は消えないよと追いかけてくる。ところが、アメリカは、住宅を貸すときはそれが担保になっているだけであるから、その使った間だけ金利を払い、もう払えなくなったということになると、かぎを返せば追いかけてこない。その住宅が貸したところのものになるだけである。そういう住宅ローンの制度があるので、銀行が無収入で仕事のない人にもどんどん住宅を貸す。あるいはいろんな政府系の住宅金融公庫みたいなところがどんどん貸していく。
最初は、低い金利で貸さないと、収入が少ないから金利が払えないだろうということで、例えば、最初の3年間は非常に低い金利にして、3年が終わると前の分も含めて高くなる。住宅価格は10年以上にわたってどんどん上がってきたわけであるから、借りた人が知らない間に、1年に2割も上がれば、2年たつと4割も上がっており、その住宅を売り払って借りた金を返すことができる。そうするとまだ30%ぐらい手元に残るから、今度はそれをベースにしてもっと大きな家を買う。というように、次から次へと低所得の移民の人も住宅市場に入ってきて、、また今までの低所得の人がちょっと金持ちになって、また大きな家を買うということを繰り返すことが出来たわけである。日本も一時、バブルのときに、そういう動きが続いたことがあった。
ところが、3年たったちょうど2007年ごろから住宅がなかなか売れなくなった。そうすると3年後には金利が上がるわけであるから、今度は返せない。住宅はあるが、価格が頭を打った途端に乗りかえることができない。つまり、過大な借り入れをしてしまったために、結局その家を出ざるを得ないことになる。
もっと大変なのは貸し付けた銀行である。これはまずいと思って、証券化して売り始めた。100の価値ということで、貸付債権を10に区切って、分割して、優良な債権と取りまぜて売る。
私の言葉で言うと、腐った肉をミンチ状にして、コロッケに入れるようなものである。コロッケに入れると、いい肉が入っているのか悪い肉が入っているのかわからない。コロッケの中にサブプライム、つまり腐ったミンチ肉を3割入れるのか、2割入れるのか、5割入れるのか、複合化した金融商品が債務担保証券(CDO)と言われるものである。
このようにして、腐った肉入りのコロッケが世界中にばらまかれた。金が余ってしょうがないから、次から次に世界中の投資家が買う。もうかるわけである。金利をちょっと高目にすれば、銀行に預けるよりもマッチベターだというので、どんどん買う。最初は、腐った肉を5割入れていたが、今度は50、50のものをさらに分割すると、腐った肉は25になるから、別のミンチ肉と混ぜて、あたかも10しか入ってないように売る。そのうちにだんだんやっていることが自分でもわからなくなる。氏、素性をさかのぼって調べないと、一体腐り肉がどれぐらい入ったのか、順番にどのように腐り肉が多くなったのか、本当は腐り肉が入ってないのかも、やっている本人たちもわからなくなってしまった。とにかく高く買ってくれればどんどん売るということで、腐り肉の入ったコロッケが、どれだけ腐った肉が入っているかもわからずに世界中に分散して、流れて、みんなの手元にいってしまった。はっと気がついたら、いろんな貸付債権が折り重なって、自動車ローンと住宅ローンとか、いろんなものが複合的にあわさって、これでリスクのバランスがとれているからということで、売っていったわけである。
ところが、いざ腐ったミンチ肉が混ざっているということがわかった途端に、皆さんはそれが一体幾ら入っているのかわからないから、疑心暗鬼になって、だれも買わなくなった。だれも買わなければ価格は大暴落する。大量に持っているところはもうキャッシュが回らなくなってきた。これがAIGの破綻であり、メリルリンチのBOAによる吸収であり、リーマン・ブラザーズの破綻になった。現金が回らない。持っている資産は全く価値がわからなくなってしまった。
オバマがきのう発表したバッドアセット、バッドバンク構想では、悪い債権を良い債権と切り分けて本格的に処理する。日本の産業再生機構と一緒であるが、日本の場合は目に見える担保、つまり住宅や土地というものがあった。ところが、債務担保証券は中身が見えない。中身が見えないから、一見よさそうな顔をした証券と、本当はいいかもしれないけどよくわからない証券の見分けがつかないから、結局幾らで買っていいのかわからない。悪い債権を政府が買うといっても、幾らで買っていいか政府もわからない。あまり高く買うと、銀行は助かるが、原資は税金だから、後で国民負担がとんでもなく膨らんでしまう。あまり安くすると、銀行は売らない、ということになって値段がつけられない。ということで、いまだにその銀行構想は動いていない。
ところが、最近オバマが10兆ドルぐらい使ってでも不良債権の本格処理をやると言っている。全部の住宅ローンが10兆ドルぐらいであるから、全部買うことになるのか知らないが、金融危機に対する措置はそのような動きになっている。
一方、実体経済の方はどうかと言うと、グリーンスパンがかつて根拠なき熱狂と言った。これはどういうことかというと、長期金利がこれだけ安い中で、世界経済が5%以上の成長を続けるということは、有史以来ない。そういうことが起きるのは経済学的には説明がつかない。景気がよくなれば金利が上がる。ところが、長期金利がずっと低迷しながら、景気だけがずっと高成長を続けた。それを彼は根拠なき熱狂と言った。しかし、根拠なき熱狂と言いながら、何の手も打たなかった。
つまり、花見酒を世界中が飲んでいた。二日酔い状態、酩酊状態である。マケインという大統領候補がいたが、彼を中心にして共和党の中で、議会でこれの究明委員会というのを立ち上げようとしている。なぜ、こんなことになったのか、原因はどこにあるのか、将来のためにはこれは究明すべきだということである。
それから、もう一つ、こういう問題を引き起こしたのは、リ・レギュレーション、規制改革をし過ぎたのではないか、という指摘もでている。二つの視点から、今、調査を始めようという動きが、ごくごく最近に出始めている。事ほどさように根拠なき熱狂に対し、経済学者も、政府の指導者も、全く手が打てていなかったということで、グリーンスパンも、今、相当批判を浴びているわけである。私も、今回の危機の本当の張本人は、政府当局者の中から選べばグリーンスパンだろうと思う。
それから、経済学者も自分がわかったような顔をしており、最近も、まことしやかなことをいっぱい言っているが、全く当てにならない。根拠なき熱狂に対して、何の政策的提言も打ち出して来なかった。みんなが酒を飲むのに任せているわけである。
酒を飲むのに任せたということは、経済界も同じだ。ものがどんどん売れれば、例えば自動車メーカーが1年に2工場ずつ、10年にわたって工場を増やし続けたということである。このペースで工場を建設すると、あっという間に世界中に25あった工場が45、50になるわけである。こんなことは、経済界としても、実体経済で二日酔いになっていなければあり得ない。こんなに売れるということは、完全なバブルで、株価がぼんぼん上がる、債券が上がる、という花見酒で、しかも金の裏打ちのない貨幣が流通して、どんどんみんな使ったわけである。イソップ物語のキリギリスみたいに使った。
ところが、あっと気がつくと、これがどこかで飽和点に達する。皆さん御存じのように、アメリカには車が2億4〜5,000万台ある。これを大体15年ぐらいの年数で償却していくとすると、1,500万台ぐらいは新車が毎年売れる。これが1,700万台ぐらい売れている。ということは、1台半持った、2台持った、というようなもので、実体経済の実力以上に車が売れていた。ところが今は、もう1,000万台を切っている。普通であれば1,200万、1,300万台は売れるところが、1,700万台までいったわけであるから、自動車メーカーは、みんな二日酔いみたいに、本当に酩酊状態で工場をつくって、どんどん生産した。
売れ行きがとまった時に、何が起きたか。もう新車は要らない、これ以上作っても、在庫の山という現状である。日本も在庫を世界中に持っている。ロシアにも、東欧にも持っている。生産地にもある。それから港から積み出すところ、すなわち、積み出し地にもある。太平洋の洋上にも船の上に在庫がある。積み卸しするカリフォルニアにも在庫がある。販売店にも在庫がある。これがみんな二、三カ月ずつ持っているから、1年分の在庫があるわけである。
ある日突然ふたをあけると、在庫の多さにおいちょっと待てとなった。工場を1年間とめなければいけない状況に追い込まれた。生産をとめてようやく在庫がはける。そこまでいかなくても、少なくとも半年から数カ月、6、7カ月分以上の生産を前倒しでやってしまった。ということは、6、7カ月分の収入をあらかじめ得たのだから、1兆円とか、1兆5,000億円とか、或いは5,000億円とかの水準の利益が出た。
そのときにも人間はおかしいと思わない欲深い動物である。これは、我々の経営がよいからだ、自動車がよいからだとみんな思った。経営者も自分の能力だと思ったわけであるが、とんでもない間違いである。経営者だけが、そんなにすぐれた能力を持っているわけがない。神様でもないし、おろかな動物である。それで、結局つくり過ぎて、ふたをあけてみたらこうなっていた。
今回の生産の激減はインターネット革命で、要するに情報が一瞬に流れるようになり、行動まで一緒にするようになったため、一斉にブレーキを踏んだ結果である。今までだったら、何カ月もかかったことが、ほんの数カ月で起こった。例えば、原油の値段は去年の7月に147ドルをつけたのだが、それから4カ月たつと40ドルまで下落した。それと同じことが様々な分野でおきた。インターネット革命というのは恐い部分があるというのはそういうことである。何でも情報が一遍に入ればいいのかというと、必ずしもそうではなく、それの裏返しで、光と影でいうと、影の部分が大暴落である。自動車からすべての経済活動面で、一気に世界中の経済がシュリンクしたのはそういう理由である。
今度は、必ずアクセルも一緒に踏むことになるのではないか。ブレーキを一緒に踏んだので、ぎゅっと急停止した。今度はアクセルを一緒に踏むと、ぐっと急発進するのではないか。そうなると、非常に恐い。
だから、今、私が考えるのは、下がって、上がって、下がって、上がってが、今までと違って、最近の気候と一緒で、上がったり下がったりする度合いが非常に激しくなっていることである。今までの株価みたいに2円とか5円動くのではなくて、20円、50円、100円と動く。日経平均株価であれば、最近は200円くらい、アメリカであっても300ドル、400ドルと動く。昔は、アメリカで10ドルとか、日本で言うと5円、10円の幅ぐらいで動くものだった。最近は、何百円と動く。これからはグローバリゼーション下のインターネット革命で、同じようなことが起きるだろう。ということであるから、これからの日本の経済を考える上において、その辺は頭に入れておく必要がある。
それで、まず在庫をある程度きれいにして、これから数カ月間、恐らく、あらゆる工場では、5割とか、6割操業というのは当たり前ということになる。今、申し上げたことからいって、当分、その時期が続くだろう。しかし、大きな利益を事前にとっているのだから、経営者は少し吐き出すしかない。とるものだけとって、吐き出さないということは、世の中あり得ない。それが、AIGとか、メリルリンチの経営者が平均労働者の1,000倍近いボーナスをもらったという批判になっている。最近では、400〜500倍だと言っているが、そういうことである。とるだけとって、損したとき、私は知らないというのは倫理的に許されないと思う。日本の経済界もJ−SOX法とか、内部統制とか、いろんなことを言っているが、人間の愚かなる心はそんな程度ではなかなか欲望というものを断ち切ることはできない。
アメリカのドルに対する不信、あるいはアメリカ式経営というもの、あるいはアメリカ型の資本主義というものに対する不信感が少しずつ芽生えてきている。それが規制改革の見直し、あるいは、先ほど申し上げたこの原因究明というような動きにつながっていると思う。
日本での反分権の動きは、アメリカの、あるいは最近の経済危機から、何でもかんでも分権したり、規制改革をやればいいというものではないだろうという意見が少しぐっと強くなってきていることが原因になっているのではないか。
しかしながら、よく考えると、こんなことはもう何十年もから、あるいは孔子の時代からあることである。ブランコは行き過ぎたら必ずまたこちらに揺れ戻しが来る。同じことを人間は愚かなる動物だから、ずっと繰り返してやっている。恐らく、この動きは、少しブランコは逆方向に揺れているが、また必ず揺れ戻しが来るということだと思う。
株価も、あらゆる経済も同じで、下がったものは上がる。上がったものは下がる。そんなことはもう2000年近く、孔子の時代からずっと続いている。永遠に上がったら天までいってしまう。そんなことはあり得ない。永遠に下がったら地獄までいってしまう、そんなこともあり得ない。必ずどこかで反転して戻ってくる。
したがって、そう心配することはない。こんなものは一過性の問題である。少し頭を低くして、質素に少し食べるものをけちって、おとなしく過ごしていれば、嵐が過ぎて、必ず戻ってくると断言できる。それが6カ月なのか1年なのか、まあ1年以上はないと私は思うが、そういう状況である。
しかし、ここで言いたいのは、日本はもっと大きな問題に直面しているということである。それは何かと言うと、日本が人口減少社会に入っていること、これが一つ目である。これは一過性ではない。これから数十年間、確実に人口は減る。二つ目は、日本国が世界にまれに見る大借金国になってしまったことである。この二つは、今の金融危機どころのさわぎではない。日本人は、岸壁に向かってアクセルを踏んでいるようなもので、今に岸壁から墜落する。これはもう目に見えている。ところが、自分の身に火の粉が降りかかっていないから、国民が非常にのんびりと構えている。政治家もそうである。
それで、私が、ここで申し上げたいのは、なぜ人口減少社会が恐いのかということである。経済成長というのは、労働力人口の伸び、資本投下、つまり生産設備の伸びと生産性の伸びによって決まる。これら3つの要素で経済成長ができるという経済学者のモデルがあり、それが実証されてきているわけである。したがって、これからの日本経済を見通してみると、労働力人口がまず毎年0.5%ずつ、大体30万人ずつ減っていく状況にあるため、経済成長は非常に難しいことがわかる。
有史以来、人口が減少して、経済が成長したということはない。唯一の例外がイタリアのルネサンスのときである。ペストで、黒死病で人口が激減したときに、メディチ家を初めとした富豪がイタリアに人間を集めた。それが、楽市楽座みたいに人間が集まって、優秀な人間が集まって、いろんな文芸品とか工芸品ができて、経済が活性化して成長した。
今、世界の人口は、67億人近いが、100年前の1900年は、何と16億人しかいなかった。世界の人口が今の大体4分の1しかいなかった。200年前の1800年には9億人しかいなかった。300年前は6億人しかいない。1700年の第1次産業革命の前あたりまでは、そんな規模である。その後、100年おきに6億、9億、16億、67億とふえてきた。これにより、経済が成長するのは当たり前である。さきほどの経済成長のモデルから言って、経済成長の大きな要素の労働力人口がふえているからである。
最も象徴的なのが、1955年から1973年の日本である。このときは1945年に敗戦で兵隊が帰ってきて1947年ぐらいから子供がふえた。それで、団塊の世代というのは、1947年から9年ぐらいまでに生まれた人のことを言う。
それはどういう事かというと、そのころ生まれた人間は、5年間で1,200万人、平均すると毎年240万人である。現在の北九州市の人口が100万人であるから、北九州市が毎年2.5個ずつ生まれるようなものである。第2次大戦直後のときは7,300万人ぐらいであった日本の人口は、今、1億2,700万である。日本の人口が毎年100万人ずつふえて、50年間で5,000万ふえたわけである。その最高潮のときが1955年から1973年のいわゆる高度経済成長期である。
そのときの実質経済成長率は9%である。中国が今8%成長、あるいは11%成長と言っているが、日本では高成長が18年間も続いた。、人口がふえた結果である。それで名目の成長率は16%である。そのときの金利は7、8%、インフレも7、8%である。
そして、そのときに何が起きたか。日本の経済がこれだけ成長したのは消費が伸びたからである。当時は国内消費の経済成長への寄与が6割を占めていた。輸出ではなく、日本人が国内でどんどん使ったわけである。最近は、輸出に、おんぶに抱っこである。その輸出も足元、昨年の10月以降、連続して二けた減少している。最初は15、6%、次に20数%、30数%、最後の1月は46、7%、日本の輸出が減っている。これには、円高とかいろいろ要因はあるが、要するに海外の景気が非常に悪いということである。高度経済成長期の日本のように、人口がふえれば、輸出に頼らなくても経済成長できる。
しかし、今度は逆である。これからは人口が減る。50年後は、50年前と同じ人口になる、ということを国立社会保障・人口問題研究所が試算している。50年前と同じということは、第2次大戦の直後ぐらいの人口になるということである。そのときに一番の問題は、65歳以上が今、全人口の21、2%であるが、この人たちが41%になると言われている。そして、今、66%ぐらいを占めている生産年齢人口が41%になると言われている。これから50年間で15%減って41%になる。
もっと大変なのは、中学生以下である。これを年少人口と言うが、14歳以下の子供たちが、今14%いる。この比率が50年後には8%になる。100人のうち8人しかいなくなる。これは50年間で、多分間違いないだろうと見られている。
その証拠に、団塊の世代が年間270万人と言われているが、今は1年間に100万人から105万人しか生まれない。小学生はどれぐらいいるかというと105万人から110万人ぐらい。中学生が110万人から120万人の間であろうと思う。高校生が120万人から130万人、今年の新成人式を迎えた人は、133万人であった。つまり今では270万人いた団塊の世代の半分以下しか成人になっていない。大学を卒業する人も130〜140万人であろうと思う。
、これから20年たって今、生まれている人が20歳になったときに130万人になるかと言えば、孫悟空が毛を抜いてぷっとやってクローン人間が出ない限りそうはならない。今、100万人しかいない子供が20歳になって、急に130万人になるなんてことはあり得ない。100万人のままである。そうすると労働力人口は明らかに減ってくるということが、もう現実の問題としてある。これが恐い。これをどうするかということが、一つ大きな問題として残っている。このことは今回の金融問題などの比ではない。確実に日本経済が落ちていくのではないかと懸念される。
もう一つは、大借金国の日本。国の負債が今、GDPの160〜170%の850兆円と言われている。先進国で第2位の大借金国のイタリアでも109%である。中国政府は、20%しか借金をしていない。そして、アメリカ、イギリス、先進国は、ほとんど60から70%である。アメリカがこれだけ公債を発行しても、まだそれぐらいの借金である。それに対して日本は170%である。
皆さんの家庭で言うと、銀行から8,500万円の固定した借金がある。夫の収入は丸い数字で言うと年収で500万円しかない。これは今、50兆円の税収のことを言っている。そして、支出はどうやりくりしても、実際の数字で85兆円とか、88兆円と言っているが、この例では毎年850万円使うとすると、その家庭は350万円追加で借金しなければならない。8,500万円の固定した借金を銀行に持っていながらである。夫の収入は500万円で、新たな借金を350万円する。これが日本の姿である。
だれが350万円貸してくれるのか。借金は年収の17年分もある。年収の17年分の借金を皆さん方が持っていて、銀行へ行って新たに350万円貸してください、と言っても貸してくれるか。年収は500万円なのにその年収の7割をまた借りる。貸しませんと言われるだろう。今に日本はそうなるだろう。
ということは、こんなことを続けていたら、日本が国債を発行してもだれが買うでしょうか。私は売り切れないと思う。だれも買わないならば日銀に買って貰うしかないが、日銀が買うということは、それだけ円が流通して、バブルになる。金の裏打ちも何もないから、さきほど申し上げたアメリカがドルでやったことと同じことになっていく。そこで何が起きるか。まず円が暴落する。次に何が起きるか。金利が暴騰する。さらに何が起きるか。最終的には、皆さんの持っている円預金が紙くず同然になるでしょう。そんな危機を平然として我々は過ごしている。
これは、ここに来ている人は、ほとんど亡くなっておられるころの話でしょうが、お孫さんとか息子さんが大変なことになる。皆さんが残した銀行の円預金、資産が紙切れになっているかもしれない。
今、長期金利は1.3〜4%くらいであるが、仮に2%で計算したら、1秒間に国の借金の金利だけで54万円、1分間で3,200万円。それで1日で470億円。月に1兆4千億円。金利だけで、年間で17兆円になる。消費税については、1%どうするかをうるさく言っているが、その前に、消費税にして6%分に相当する額が毎年の借金の金利で失われていることを考えて欲しい。それにみんな目をそらしている。直視しない。どうするか。増税するかあるいは切り詰めるか何かしない限り、解決の方法はないのだ。
アメリカの州法では、必ず収入と支出を均衡させるという決まり、法律がある。したがって、今、ものすごくアメリカは大変である。何をやっているか。いろんな支出をふやすために、何かを削減している。収入が減っているから、更に支出を減らさなければいけない。日本はそんなことはないから、国と地方の政府が借金をして、国債や地方債を発行する。この借金は一体どうするか。これが二つ目の大きな問題である。
私が地方分権の話をする前に長々と話したのは、結局、なぜ地方分権が必要なのか説明するためである。人口が減少するなか、何の手も打たないでこのままいくと日本はつぶれる。手が打てないのは金がないからである。子供が病気になっても、8,500万円の借金があって、さらに毎年350万円借金しなければいけないのに何の薬も買えない。日本は、今、そういう状態である。それなのに、国際協調でドルを支えようということで、国債を発行する。また借金が増える。
さて、これだけ国も地方も借金だらけで、それをそのままにし、更に、この壮大なむだを続けて本当に大丈夫なのかということを、私は非常に恐れている。それで地方分権がなぜ必要なのか、私も力を入れて麻生首相にも申し上げたし、鳩山大臣にも、皆さんにも申し上げた。なぜ分権にそこまで力を入れるのか。それは何かというと、要するに、国の出先機関のことである。今32万人いる国家公務員のうち21万人は、何と国の出先機関で働いている。各県や市町村でやっている仕事のほかに、21万人もかかって出先でやるような仕事が本当にあるのか、ということである。
地方自治体と国の出先機関との間で二重行政のむだを続けているのではないのか。さらに、出先機関の下に独立行政法人、公益法人が五万とぶら下がっている。そういう状況があって、よく皆さんが指摘されている外郭団体のむだ遣いや官製談合もあるのではないか。事故米の不正の問題もあった。流通のずさんな対応策があった。少し前の話であるが、北海道の滝川市で2億数千万円にも上る介護タクシー代の不正受給という事件があった。1回のタクシー代25万円という法外な金額請求に対して、職員は注意義務を怠っていた。結局、市役所の職員がみんなで弁済しようと言うことで、あらゆる方がみなさん、何万円か、年収を減らして、3年か、5年で返そうということである。それはやらなければどうしようもないということだろうと思う。しかし、事ほどさように二重行政、今申し上げたむだ遣いがある。こういうものは膨大な人員と予算を使ったり、大規模な公共事業の執行の舞台であるにもかかわらず、全くと言っていいほどチェックが入っていないことにそもそもの原因がある。
今度、私も今週に、大阪の橋下知事にきていただいて、国の直轄事業補助費についていろいろ意見を聞こうと思っている。皆さんも、ぜひ反対の声を上げられた方がよいと思う。これはもう国交省は本当にけしからんと思っている。
なぜかと言うと、今回の予算を要求したときの原油の値段は1バレル=147ドルだったと思う。去年の7月の初めごろである。これで予算折衝が始まるから、その価格を前提に予算に組み込んでいく。しかし、それから4カ月で暴落したはずである。さきほど申し上げたように、石炭は下がる、セメントは下がる、船運賃は22万ドルしたのが1,000ドルまで下がって、それから2万ドルか、2万2,000ドルに上がって、今4、5万ドルである。
そういうときに、暴騰したときの予算要求をベースにして、その4分の1を、地方自治体の負担ですよ、と言われても、ちょっと待てということになる。国の事業予算を見せなさい。原材料費は幾らか、人件費は幾ら計上しているのか、示して欲しい。それでこれだけのお金がかかるから4分の1払ってください。これならわかる。
ところが橋下さんもそうであるが、各都道府県は、今まで予算明細を見せてくれとは、一切言わなかった。なぜ出さないのか。税金である。国交省の金ではない。税金で予算を組んでいるのにチェックすらしてない。皆がむだ遣いをしている、というのはそういうことである。一体幾ら使っているのか。例えば、橋を一つつくるのに、鉄骨は高いままの鉄骨代なのかと。セメントは、4分の1以下に落ちているのに、なぜそんなに高いのか、しかも去年より上がった要求を払うように言っているわけである。そうしないと、交付金は払わない、補助金を出してあげない、と国交省が言っているわけである。10億円の事業で2億5,000万円払えば、あとの7億5,000万円を国が出してくれる。仕方がないから高くても安くてもいいから、とりあえず2億5,000万円出すということである。明日のことよりも今日の100円で、いうことである。
ところが、夕張のケースを見て、皆さんはちょっと待てとなった。2億5,000万といえども、結局、最後は地方の財布から払わなければならないと。国にしっぽを振って、7億5,000万をもらって橋ができたとしても、2億5,000万の借金が残る、ということに気がついたわけである。
、北海道知事にも、栃木県知事にも、私は会ってその話をした。そこで、みんなが明細を見せるように国交省に要求しているが、国は一切出さない。なぜか。私が国民の皆さんに本当に言いたいことは、膨大な出先機関というのがあって、そういう無駄なことをやっているという事実である。
それはなぜか御存じでしょうか。出先機関に来ている長の方は、ほとんどが1、2年で変わるからである。そんなことはおかしいのではないか。地元に対する愛着、地元に対する愛情があって、住民のためになるから、地方自治というものが成り立つわけで、霞ヶ関の机に向かっている人間が、北は北海道から南は沖縄までの住民のことを考えて仕事ができるるのか。
沖縄のことを本当に考えるのは沖縄県民である。兵庫のことを本当に考えているのは兵庫県民である。霞ヶ関の人が、なぜ兵庫県のことを、皆さんよりもわかって、指図ができるでしょうか。補助金を出すから、セメントはこれを使え、鉄骨はこの値段だということだろうが、兵庫県の県民のことを考えると、本来なら10億円もかからない、5億円で済むとすべきである。現実に、市町村であれば、そういう例は推挙にいとまがない。橋をつくるときに、砂利道でいいのに、セメント造りにするとか、夕張へ行くと、国道だと言って両脇2メートルずつの歩道をつくっている。だれも歩いていない。夕張は、ほとんどが自動車の利用者なのに、なぜこのような歩道をつくるのか。それはそうしないと補助金をくれないからである。
国はどこでも同じ規格の道路をつくる。そうでなければ補助金を出さない。しかし、もうそういう時代ではないでしょう。地方のことは地方に任せなさい。そして、いずれは出先機関は全面廃止すべきと、本当はそう思っている。
しかし、それを直ぐにやると世の中はまとまらない。それで、第2次勧告ではせめて3万5,000人は切れという主張にとどめた。ハローワークにしても、兵庫県の失業者の方に就職の世話をするのは、何も出先機関にお願いすることは全くない。栃木県に行ったときもそうだった。県の方は、年末年始の30日、31日まで働いていたが、国家公務員は28日で終わりである。だれが県の労働者のことを考えているのか一目瞭然である。だから、それを地方に任せなさいと言っているが、国は一切任せない。
それから、国は一律一括で義務づけ、枠づけを、やっている。それで県を縛っている。農地の転用から何から全部縛っている。この国の縛りを取りなさいと勧告している。これについては、東大の小早川教授を中心にして、関連する1万条項の法律を見直している。こんなことはもう二度とできないほどの大掛かりな作業である。
私は、これまで2年間に80回ぐらい、分権委員会に皆さんに集まってもらってずっと議論している。1万条項の法律を見直してくださいと。これを失敗したら、今回の分権改革を失敗したら、二度とできない。膨大なエネルギーである。学者を集めて、1万のうちの四千数十項目については、地方に任せなさい、国がいろいろと言う必要はない、ということを提言している。これも絶対にやってもらわないといけない。仮に、これを全く無視するのであれば、もう二度と地方の分権は進まない。
それでは、進まないときに何が起きるか。相変わらず国の出先機関に21万人いる人間が、事故米の流通とか、いろんなことを地方の自治体に言ってくる。もし、それを全部地方に任せたら、地方の人は、住民の身近にいるから、変なことはしない。特に議員の方は選挙で選ばれているから、そのような変なことをやると次は落選する。しかし、霞ヶ関の人たちは、東京都に住んでいるから、北海道も沖縄の事情は関係ない。
地方のことを本当に考えているのは、地方の人であるということを霞ヶ関の人たちにしっかりと認識してもらう必要がある。地方分権はだれのためにやっているのかというと、我々は地方の人々のためにやっている。地方の人々には、もっと自由になってください、もっと自由に判断してください、と言っている。
そこで大事なのは県議会である。これから地方分権が進み、国の義務づけ、枠づけを外して、自由にすれば、県議会は監視役になる。県庁がどういう仕事をして、予算はどういうものをつくる。それをこれが正当かどうか、まじめにやっているか、県議会が監視しなければいけない。それは県知事でもない。県議会が力を持つ。それが条例の上書き権や、義務づけ、枠づけの廃止ということである。これから県議会に立法権を任せる。国が法律をつくっても、これはだめと言える。例えば、兵庫県は、こういうことはしません、という権限を県議会に渡す。これが地方分権の義務づけ、枠づけの廃止であり、立法権である。また、財政権は、地方債を発行するかどうかを県議会が決めることである。
そういうことをこれからやろうとしているのに、県知事は、一級河川はどうだ、道路がどうだ、と覚悟が足りないようだ。金がつくのならば全部やればいいではないか、金がつかなければやらない、と言いなさいと私は麻生全国知事会長に申し上げた。小泉さんのときに三位一体改革で蹴飛ばされたので、多くの県知事の方はもう二度とだまされまいと思っているようであるが、そんなことをしていたら、もう二度と、再び分権はできなくなる。我々は、約束したことは必ずやる、仕事が移ったら金も移すと言っている。そういう条件で我々は必ずやるつもりである。
だから、地方も金を移して全部任せてくれ、と言いなさい。地方公務員は、国家公務員に能力が劣っているか。そんなことは絶対にない。国家公務員の出先機関の職員がとんかちを持って自分で仕事をしているか、そんなことはやらない。みんなアウトソーシングしたり、建設ではゼネコンとかを使っている。しかも、兵庫県の建設会社は使わないのではないか。出先機関が、一般競争入札ということで、東京とかのゼネコンを使うと、法人税は兵庫県に落ちない。働きに来る人は、兵庫県民とは限らない。みんな金を持って、ほかの県にいって税金を払う。兵庫県で投資したのに、兵庫県に金が落ちなければ、兵庫県が貧乏になる。
だから、保護主義的に兵庫県で投資する金は全部兵庫県で使えば、兵庫県は豊かになる。余りそれをやると、鎖国経済になるから言えないが。兵庫県に投資をする、働く人も全部兵庫県民、兵庫県で産出したものは全部兵庫県で使う。余ったものを輸出して金をかせぐ。これをやれば兵庫県は豊かになるのではないか。
今、東京がなぜ豊かなのか。それは地方が投資した金の大部分が東京に持っていかれるからである。東京のゼネコンの払う法人税、東京から働きに来ている人が住民税をを東京で払うというようなことが夕張がだめになった原因のひとつであったように思う。
これから私が申し上げたような地方分権改革を強力に進めなければいけない。分権の内容についてはお配りした資料を読んでいただければわかるが、大事なのは本当になぜやらなければいけないかということである。それを今日は話させていただいた。このままいけば各地域はみんな貧乏になってしまう。これを何とかして、各地域を再生して、各地域が自分の力で生きていけるようにしなければいけない、その正念場に来ている。それを、我々がお願いして皆さんがやってくださいというのではなくて、本来は皆さんからお願いされて我々がやらなければいけない。 私も麻生福岡県知事に言った。全部やらせてくれ、と言ってくださいと。それを待っている。だから、横浜で全国知事会があったときにも、急遽、私はそこへ出かけて、各知事の皆さんにだらしない、と言ってハッパかけて来た。もっとも、その後も各知事の皆さんの振る舞いは余り変わりませんが・・・。
要するに、本当に地域の住民のことを考えるのであれば、地方債の発行なども含め予算についても地方議会が決めていく。そうすれば住民が見ているから、住民の希望が反映される、それが本当の分権になる。
地方分権で、先ず、地方と国の役割分担をやらないと道州制はできない。地方と国の役割分担をして、何が地方の仕事であるか、国の仕事であるかを分けずに、どうやって道州制をやるのか。そこで、まずやることは、法律で、地方の仕事と国の仕事を決めなければいけない。官僚は、口で言っても動かない。法律で決めれば、そのとおりに動く、動かなければ法律違反になるからである。国家公務員が一番怖がるのは法律違反になることであるから、我々は法律化しようとしている。従って、最も強く反対するのも官僚である。法律化して、分権が進むと、次に、広域連合が始まる。そして、その上で道州制が自然に進んでいく。
例えば、10年後に道州制にするといっても、そのとき世界がどう変わっているか誰にもわからない。
今、太平洋岸と日本海をつなぐ最も近いところはどこかというと、愛知県と富山県を結ぶ線である。万博のときに高速道路ができたが、それを使うと2時間で行く。トヨタ自動車が、シベリアへ車を運んだり、中国の東北三省、昔の満州に運ぶのに、一番都合がいいところは日本海側の富山県である。日本海へ持っていくのに太平洋を回る必要はない。道州制が今、議論されているが、尾張は、三河とか三重県とか、静岡と同じ区割りと言われている。しかし、実際の経済活動は太平洋岸だけの集まりではない。日本海との縦の連携は一体どこへいってしまうのか。今、議論されているような区割りでは愛知県は、トヨタは、困ることになるのではないか。
なぜ、道州制というものをそういう固定した観念で考えるのか。広域連合で、自動車は富山県と一緒に連携する。紡織機は例えば静岡と連携するなど、各県同士が勝手にやればいいのではないか。徳島県は関西圏と経済的につながりが密接であるから、四国以外の府県と連携を強めていけば良い。吉野川の流域問題については、四国の4県がみんな集まって、流域をどうするか考えるといいわけで、何も固定した道州制にすることは全くない。淀川も同じである。そういった広域連携でのさまざまな形の連携を、マトリックス上にどんどんやっていく。そして最後に、行き着くところが道州制である。
最初から道州制といっても、どうやってやるのか。霞ヶ関で、机に向かっている人が、強引に、また全国一律一括で、ああだ、こうだと言って、ろくなものをつくらない。やはり現場の府県が中心になって、こういった連携があるからこれを一つにまとめた方が、都合がいいのではないのか、県知事が職を失ってもこの方がいいのではないのかと考える、そういうことになって道州制ができる。机に向かって、これはいい、これは悪いと言っていても、そんなことで道州制はできない。
これは、私は地方分権をやっているからそう言っているわけではない。国がよくなればいい。だから、まず先程申し上げたように、今年中に大綱に盛り込まなければいけない。春先には行程表を作り、ちょっと遅れるかもしれないが、必ず今年中にはやると、鳩山大臣もおっしゃっている。だから、そのためには、兵庫県の方も分権賛成、大いにやれと知事にハッパをかけていただきたい。金がつくのであれば全部受けてこいと、条件をつければよい。金がつかなければ受けてはいけない、そういう条件で県議会が分権を受けろ、と言っていただいたら、我々、地方分権委員会はやる。そして、政治家の皆さんに申し上げておきたいのは、もし地方分権に反対し、霞ヶ関に権限を渡すということを言うのであれば、私は絶対に国民の審判が下ると思う。例えば、兵庫県選出の代議士が霞ヶ関に権限を残すべきだと言ったとすれば、兵庫県の人が何だと思うだろう。兵庫県に金と権限を渡す、ということを言わなければ、地方選出の代議士を県民は拍手しないのではないかと思う。
ですから、私は、最近そのことを言い始めている。皆さん、選挙があるでしょう。選挙があるときに、兵庫県の選出の人が、あるいは福島県の選出の人が、兵庫県や福島県には権限を渡せない、霞ヶ関の国交省や、農水省に渡すべきだと言ったとすれば、福島県民、兵庫県民はどう思うか。少なくとも自分を選んでいただいた選挙民のことは忘れてはいけない。権限を渡せないということは、その県民を信用していない。県議会を信用していないということになる。
ということで、この地方分権に対して、そういう熱い思いを持って、ぜひ早速にでも、県議会で、知事を少し突き上げをしていただけたらと思う。
〔 質疑応答 〕
○藤本百男 議員
なぜ、地方分権が大切なのかというところをていねいに教えていただいたわけであるが、一点質問がある。冒頭に、反分権の動きが非常にあるということであった。第2次勧告案が出たときに、数値目標として、3万5,000人の削減というようなことを出された。ところが、その後、事務方で、それを骨抜きにするかのごとき文言が挿入されたというようなことを新聞報道で見たが、この行程表のこともあわせて、その問題は一体その後どういったことになっているのかお教えいただきたい。
○丹羽宇一郎 会長
実は、きのう鳩山大臣に会ったのはその件である。我々も新聞報道を見て、これが、その報道どおりとすれば大変にゆゆしき問題だと思った。さきほど申し上げたように32万のうち、21万も出先機関にいて、そのうちのわずか3万5,000人、10%、15%ぐらいを、とにかく統廃合の対象にするか、あるいは国家公務員から地方公務員に移しなさいというようなことを申し上げている。
それに対して、全く無視するような発言をされているという報道である。私は、今晩夕方、これから帰って総理主催の分権の会議に出る。地方分権改革推進本部の会議である。関係閣僚が全員集まる。私もそこに特別に参加をしているわけであるが、そこでも申し上げるつもりである。
つまり、第2次勧告で申し上げたのは、この行程表に係るものは出先機関の統廃合、そして3万5,000人の削減である。現在の政局で、党内で、あまり騒ぎを起こすと選挙のときに体制が整わない。だから、今反対があることをそのままやるのはやはりなだめで、「そうおっしゃるが、こういう方向で検討しましょう」と言おうと思う。こういう方向というのは、「第2次勧告の精神を尊重して、引き続きこの問題については大綱に取り込む、分権計画大綱の中に取り入れる」ということで、実際にもそう表現をされるはずである。
第2次勧告を尊重してということは、つまり出先機関の統廃合と3万5,000人の削減ということを大綱に取り入れるということをやるということである。勧告に対して、ノーではない。
ただし、代議士の皆さんはやはり選挙ということが今は、非常に頭の中にある。だが、そのときに、先程申し上げたような私の論理でいくと、自民党代議士の方が地方分権に反対をすれば落選するのではないかと思う。県民はみんな反対していると見る。地方に何も任せないのか。
だから、きのうも言った。「あなたのことを言うつもりはないが、自民党の中で言った方がいい。反対すると落選することになる。地方に任せないと言えば、県民をばかにする、県議会をばかにしていることになるのではないか。」と。
数字を言うと、今申し上げたように混乱するので、数字はあえて言わないが、鳩山大臣も第2次勧告の精神を尊重してやるとおっしゃっているので、私はやると思っている。
以上